トランプ政権の誕生による安全保障を梃子にした多国間から二国間交渉へのシフトや国内産業保護思想の過度な高まり、中国による旺盛な内需と対外援助を梃子にした他国の外交政策への働きかけなど、主に自国の経済力を梃子にして地政学的な国益を追求する国政術を研究するプログラム。
Economic statecraft(以下ES)の激化は国及び企業におけるルール形成のアプローチを根本的に変化させることから、当研究所では研究プログラムとして立ち上げました。これまでは自由貿易市場を世界に広げて企業に資本効率を追求させる環境を整えることで、世界各国の消費者は多様な企業を通じて自国の資源制約に縛られずに必要なモノ・サービスを必要な分だけ調達できる経済圏を作るべく、ルール形成が行われてきました。その意味で、接続性を高めるルール形成と行き過ぎた効率性の追求がもたらす環境問題など外部不経済を解決するルール形成に関するナレッジの蓄積が意味を有していました。また、その最大の特性はオープンな場でルールを協議することで効率性への寄与、問題解決への有効性を共有する透明性を前提にしていたことです。
しかし、ESの激化は安全保障を意図したルール形成であることからルールのデザインは各国の国家安全保障会議、国家安全保障経済政策会議で議論され、他国との協議も安全保障協力というセキュリティクリアランス保有人材のみが関与する機密情報を取り扱えるコミュニティで多くが進んでいく構造へと変化します。また、安全保障目的ゆえに初期の経済合理性は犠牲にしてでも新しい技術基盤やサプライチェーン構造、特定国との取引関係などの見直しが国家権力によって非連続に成し遂げられます。ここでは不透明かつ予測不能な中でルール形成が行われるため、特に日本企業には予見が困難となります。当研究所では各国のESの動向を独自のネットワークで収集した情報から想定すべきルール形成シナリオを構想し、政府および企業に対してESへのカウンタールール形成戦略の推進を支援します。