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発行者: CRS細胞農業研究会事務局広報委員会


2020/09/03

CRS細胞農業研究会ニュースレター

広報委員長

委員

本号では文末にて、広報委員の山口氏による培養肉業界に関する論文解説を掲載いたします。今回は、培養肉についてメディア、宗教、規制、経済的インパクトなどの多方面から分析した下記論文をご紹介します。

Christoper J. Bryant.”Culture, meat, and cultured meat.” Journal of Animal Science, Vol. 98, Issue 8, August 2020.

また、本ニュースレターに記載・告知されたい内容がございましたらお気軽にご連絡ください。各ニュースレターのピックアップ、コメントは広報委員会の見解であり、研究会の意見を代表するものではないこと、何卒ご了承ください。

広報委員長:吉富愛望アビガイル

| 目次

 1. ハイライト
インテグリカルチャー(細胞培養スタートアップ)、2020年度NEDO-PCAに採択され、約2.4億円の助成対象事業者に決定
2. ビジネス環境
フレッシュネスバーガー発売の「THE GOOD BURGER」に熊本県拠点の植物肉メーカーDAIZの植物肉 「ミラクルミート」が採用
信越化学、植物肉素材に参入 ESGで需要増
バーガーキング、ドイツでプラントべースのチキンナゲットを販売開始
日清食品ホールディングスによる肉本来の食感を持つ「培養ステーキ肉」実用化を目指す研究がJST「未来社会創造事業」の新規本格研究課題に決定
スイス拠点のNestleがツナに代わるヴィーガン代替品を発表
プラントベースの卵メーカー JUST が2021末までに営業利益の黒字化の見込み、その後IPOを検討すると言及
未来型ハンバーガーショップ&プラントベース専⾨の⾁屋のThe Vegetarian Butcherが2020年8月26日に日本発上陸
DSM、Avril社との植物由来タンパク質開発において合弁会社を設⽴
3. 細胞農業研究会広報委員の山口による論文紹介
4. イベント
5. 最後に
 ハイライト

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2020/08/28

インテグリカルチャー(細胞培養スタートアップ)、2020年度NEDO-PCAに採択され、約2.4億円の助成対象事業者に決定

サマリー

  • 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の2020年度「研究開発型スタートアップ支援事業(旧:研究開発型ベンチャー支援事業)/Product Commercialization Alliance(PCA)」に係る公募において、助成対象事業者に選定され、約2.4億円の助成を受けることが決定
  • 助成金は、同社の技術である汎用的な大規模細胞培養技術”CulNet System”を、企業連合による開発で自動化や品質管理技術を組み込んで大規模化・生産拠点として整備し、フォアグラや培養肉などの細胞農業製品を、2021年から2023年にかけて順次上市するために活用予定

吉富コメント:

プレスリリースによると、CulNet Systemは、汎⽤性の⾼い細胞培養プラットフォーム技術で、動物体内の細胞間相互作⽤を模した環境を擬似的に構築する装置(特許取得済み)のこと


本技術は、理論的にはあらゆる動物細胞を⼤規模かつ安価に培養可能で、培養⾁をはじめ、様々な⽤途での活⽤を想定。すでにラボスケールでは、管理された制御装置下で種々の細胞を⾃動培養し、⾼コストの⼀因であった⾎清成分の作出を実現(特許出願済)。⾎清成分の内製化実現により、従来の細胞培養が⾼コストとなる主因の⽜胎児⾎清や成⻑因⼦を使わずに済み、細胞培養の⼤幅なコストダウンの実現を目指すとのこと

ビジネス環境

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2020/08/31

フレッシュネスバーガー発売の「THE GOOD BURGER」に熊本県拠点の植物肉メーカーDAIZの植物肉「ミラクルミート」が採用

サマリー

  • 9月1日より全国のフレッシュネスバーガーにて購入可能
  • 8月12日より実施していた、首都圏の一部の店舗における検証発売は、想定を上回る売れ行きとなり、この度、全国のフレッシュネスバーガーにて発売開始
  • これまでの植物肉に使用されてきた主原料の大豆搾油後の残渣物(脱脂加工大豆)ではなく、原料に丸大豆を使用し大豆特有の臭みを無くし異風味を低減、味や機能性を自在にコントロールする技術で大豆を発芽させ旨味や栄養価を増大、かつ肉のような弾力と食感を再現する技術により加工を行うなど工夫を凝らした商品
  • 九州大学(松井 利郎 教授)、京都大学(後藤 剛 准教授)、佐賀大学(穴井 豊昭 教授)らとの共同研究により技術を開発

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2020/08/31

信越化学、植物肉素材に参入 ESGで需要増

サマリー

  • 大豆など植物由来のタンパク質で作る「植物肉」向け素材に参入、欧米の植物肉メーカーへの供給を増やし、新たな収益源に育てる
  • 信越化学が手掛けるのは植物肉に混ぜる接着剤で、パルプに含まれるセルロースから作る
  • ドイツで生産体制を整えた。植物肉を生産する欧米の新興企業を中心に供給を増やし、まずは年間数十億円の売り上げを目指す

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2020/08/29

バーガーキング、ドイツでプラントべースのチキンナゲットを販売開始

サマリー

  • 生産はThe Vegetarian Butcherが行う
  • 2020年9月1日より一部店舗にて取り扱いを開始

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2020/08/25

日清食品ホールディングスによる肉本来の食感を持つ「培養ステーキ肉」実用化を目指す研究がJST「未来社会創造事業」の新規本格研究課題に決定

サマリー

  • 日清食品ホールディングスと東京大学 大学院 情報理工学系研究科 (東京大学 生産技術研究所 兼務) の竹内 昌治教授は、2017年度から共同で「培養ステーキ肉」の実用化を目指して研究を進めている
  • 同研究の「培養肉」は現時点では1cm角であるが、最終的には厚さ2cm×幅7cm×奥行7cmを目指すとのこと

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2020/08/21

スイス拠点のNestleがツナに代わるヴィーガン代替品を発表

サマリー

  • Maggi soups や bouillon cubes のように、ネスレは植物性たんぱく質分野への投資を進めてきた。
  • 開発に9ヶ月を要し、えんどう豆由来プロテインでできた新商品”Garden Gourmet”ツナは、グループ初となる植物性シーフード商品である。同社の大豆由来のバーガー用パテ、ミンチ肉、ソーセージ、チキンナゲットなどはすでに上市済である
  • 新型コロナパンデミックの影響で2020年上半期は食料の家庭内消費量の増加に伴い、”Garden Gourmet”シリーズの売上が急増したとのこと。去年の植物性商品のグループ売上は$219mにのぼる

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2020/08/19

プラントベースの卵メーカー JUST が2021末までに営業利益の黒字化の見込み、その後IPOを検討すると言及

サマリー

  • サンフランシスコ拠点のJUST社は、緑豆ベースの代替卵商品をWalmart、KrogerやWhole Foods などの小売店に納品しており、プラントベース食品の小売店における売上増加の好影響を受けた
  • 営業利益の黒字化を達成した場合、IPOを真剣に検討するとJUST社のCEOあるJosh Tetrick氏は語る。黒字化のタイミングやIPOの時期を示したのは本件が初めてである
  • 黒字化に向けたコストカットのためには、緑豆からより多くのプロテインを抽出することや、価格交渉力強化のためより多くの緑豆を西アフリカやアジアから購入する必要があるとTetrick氏はコメント。また同氏は、消費財会社、小売店や鶏卵サプライヤーとの契約も売上高向上につながると見ている
  • リサーチファームのSPINSによると、新型コロナパンデミックの影響でプラントベース食品の小売売上は昨年に比べて11% ($5bn) の増加、プラントベースの代替卵市場は約3倍に拡大したとのこと

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2020/08/16

未来型ハンバーガーショップ&プラントベース専⾨の⾁屋のThe Vegetarian Butcherが2020年8月26日に日本発上陸

サマリー

  • The Vegetarian Butcherは2011年にオランダで設⽴されたPBMのスタートアップベンチャー。18年12⽉⾷品・⽇⽤品⼤⼿の英蘭ユニリーバが、市場の拡⼤を⾒越して同社を買収したことで注⽬を集めた
  • 19年には世界的ハンバーガーチェーンのBurger Kingとコラボをしてヨーロッパ25ヵ国で「REBEL WAPPER」を発売をスタート(現在世界30ヵ国15,000店舗で販売)

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2020/08/15

DSM、Avril社との植物由来タンパク質開発において合弁会社を設⽴

サマリー

  • ライフサイエンスとマテリアルサイエンス事業を行うオランダ拠点の化学企業 (19年の売上高1.1兆円) であるRoyal DSMと、フランスで第4の規模を誇る農産業関連企業グループ(18年の売上高7614億円)であるAvril社は、合弁会社Olateinを設⽴し、世界の⾷料市場をターゲットにしたキャノーラ(菜種)油の搾りかすから作るタンパク質の⽣産を開始 (フランスのDieppe(ディエップ)にて⽣産⼯場の建設に着⼿)
  • DSMの持つ、菜種油の搾りかすから⾼品質の植物性タンパク質を⽣産する特許取得済技術やプロセスと、Avril社の35年にもおよぶ油⽤種⼦とタンパク質含有作物の⽣産に関する知⾒を最⼤限に活⽤する予定

吉富コメント:

  • DSMは同月に、”植物由来代替⾁の開発に貢献する包括的なソリューション”技術を紹介。うち、“代替⾁向けソリューション“として、代替⾁製品に⼀般的に⼤量に含まれるナトリウムを低減する技術、植物由来タンパク質の食品等にみられる⾖独特の⾹りをマスキングし、「旨味」を作り出す技術、ジューシー・多汁でこってりとした⼝当たりを⽣み出す技術などを発表
  • 本件は植物性肉の話ですが、培養肉業界についても、DSM社のように味を良くするための添加物等への研究に特化した会社が近々参入する(もしくは未発表で有るだけで参入済)と考えられます

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2020/08/03
Christoper J. Bryant.”Culture, meat, and cultured meat.” Journal of Animal Science, Vol. 98, Issue 8, August 2020.
の論文紹介

サマリー

メディア
  • メディアが消費者需要に与える影響は大きい
    特に培養肉の黎明期は、領域の先駆者(特にNew Havest)から培養肉に関するポジティブな内容が発信され、それが良いイメージを作ってきた。既に培養肉に馴染みがある人はこの影響で培養肉に対してポジティブな態度の人が多いのではと推測している。一方で、培養肉の印象を悪くするような(unnaturalnessなど)発信もメディア見られる。しかし、Hopkins and Dacey(2008)では、これらの主張それぞれについて議論し、培養肉に対する有効な反対意見ではないと結論付けている
  • 培養肉に関する報道が、ベジタリアンの培養肉に対する意見に過度に焦点を当てている
    動物性食品の消費を減らすという観点では、ベジタリアンが培養肉を食べるかどうかはさほど重要ではない
  •  培養肉の技術的革新度合いよりも、従来の肉との類似性が受容性には重要か
    ある調査(Bryant & Dillard 2019)によると、(i)培養肉の技術的新しさを強調した報道を見た人と、(ii)培養肉の社会的利点や従来の肉との類似点を強調した報道を見た人では、後者(ii)の方が培養肉を食べたいと思う可能性が優位に高かったという

宗教

  • 各主要宗教徒に対する、培養肉需要に関するアンケート結果
    米国、インド、中国の3,030人の全国代表サンプルから得られた調査データ(Bryant et al, 2019)に含まれている、ユダヤ人(n = 23)、イスラム教徒(n = 193)、ヒンズー教徒(n = 730)、仏教徒(n = 139)の回答に着目。どの培養肉製品(鶏、牛、豚)を食べたいと思うかについてのデータが含まれている
  • ユダヤ教
    培養肉がコーシャ(清浄な食品)であるかどうかが焦点。細胞採取時にもコーシャに従った屠殺がされるか。コーシャかどうかについての分析論文が既にあり、この段落で引用されている
  • イスラム教
    培養肉がハラル(イスラム法上食べることが許されているもの)かどうかが焦点。細胞がハラル屠殺された動物で培養に血清をつかっていなければ問題ないと主張する人もいる。しかし、細胞自体がハラルでない(=ハラムである。豚由来など)の場合はその可能性は低い。イスラム教の調査(n=193)では、現在豚肉を食べていると答えた人が30%もおり、既に宗教上のルールに厳格に従っていない人もいることも示唆された
  • ヒンドゥー教
    非暴力の原則であるアヒンサー(不殺生)が重要。これを満たしていれば(動物を傷つけていなければ)認められる可能性は高い。ただ牛は神聖な生き物とされているので、培養牛肉は難しい可能性。全体的に培養肉に好意的なアンケート結果であった
  • 仏教
    培養肉の許容性について参考になるルールはそこまでない。修行僧は肉食を控えているというイメージがあるが、実はそういう人は少ないことが述べられていた
  • 全体
    大多数は培養肉に対して寛容であるが、宗教上認められていない種(イスラム教は豚肉、ヒンドゥー教は牛肉)を避ける傾向が見られた。アンケート回答者の大部分は、自分の宗教で定められた食生活を厳密に守っていないようであり、培養肉自体の許容性に関する宗教的な基準に敏感であるとは考えにくい。と主張している

規制

  • 規制の枠組みの明確化は進んでいるが、まだいくつか問題はある。培養肉は肉かどうかが大きな焦点。ここではEUとアメリカの概観に言及
  • EU
    新規食品規制にもとづいて、新しい食品として扱われる。食品表示が明確である必要がある。遺伝子組み換え成分が含まれる場合、厳しい規制による更なるハードルが待っている。EUで承認された後、各国の法律での承認も必要になる可能性が高い
  • アメリカ
    FDAがpre-harvestの生産工程や材料、USDAがpost-harvestのモニタリングや表示を取り締まる。食肉と定義されるかは大きな論点。健康やアレルギーの観点から懸念がある。また食肉業界からの反対がある

経済的インパクト

  • 農業従事者の雇用減少
    新たな雇用も生み出されることは間違いないが、農業労働者と全く異なるスキルが必要になる。高い教育レベルが要求されるかもしれない
  • 経済的不平等の悪化
    培養肉生産には、大規模なインフラと教育レベルの高い労働力が要求されるため、先進国のみで実現可能であり、発展途上国などとの経済的不平等を悪化させる可能性がある。上述の教育レベルにも関連。しかし、培養肉産業がどのような形になるかはまだわからない。技術が民主化され、「裏庭に豚を飼う」ことで自ら培養するスタイルの可能性もある(これは有志団体Shojinmeat Projectが目指している1つの形です)

消費者の不平等性

  • 培養肉が貧富の格差を拡大させるのではないかという懸念がある(複数引用)。これは培養肉が提供される値段や、マーケティング的な立ち位置による。短期的には、贅沢品として扱われるかもしれないが、長期的には生産コストの低下で、より一般的になりこの不平等性が解消される可能性もある
まとめ
  • 技術的課題の克服はもちろんであるが、社会的・文化的現象や制度との関係を考慮する必要がある
  • 規制・宗教・経済手影響に関する不確実性の多くは、生産プロセスの不確実性と密接に関連している。技術的課題と社会的課題の相互作用を考慮していく必要がある

山口コメント:
  • 各宗教へのアンケート結果は単純なものですが、そこそこの回答数があって興味深かったです。このアンケート結果の分析から、自分が今まで思っていたよりも、培養肉の普及における宗教的な障壁は低いのではと感じました。気になる方は、結果を細かく見てみても良いかもしれません
  • 培養肉が世界の環境問題などの諸問題を解決するには、考慮すべきことが様々あることを改めて実感しました。培養肉を普及すること(目先の収益化やそのためのマーケティング)に捉われて、培養肉をつくるモチベーション(それによって解決したい課題)を忘れてしまうようでは本末転倒です。個人的には、培養肉の普及による貧富の格差の拡大は見落とされがちな問題になると考えているため、技術の民主化も重要になってくると思います
  • この論文は、技術(生産プロセス)の進展が社会実装方法を規定し、社会的な仕組み、文化的な受容を形作る可能性が高い(逆も然り)ということを改めて強調してくれました。社会的な受容を考慮し生産方法を考える一方、生産方法によって文化的な受容や経済的インパクトも変わってくることを念頭に置いて、双方の進展、相互作用に注視していきたいです

イベント

日本細胞農業協会主催 細胞農業・培養肉 業界セミナー
  • オンライン開催/一般 3,000円
  • 日本細胞農業協会代表理事 五十嵐氏より細胞農業についての概要をご説明した後、インテグリカルチャー株式会社CEO 羽生氏より、細胞農業業界の最先端をレクチャーいただきます

詳しくはこちら

The Good Food Institute による、植物性代替肉と細胞培養肉の科学的背景を学ぶ無料コースが開催
詳しくはこちら




















 最後に


イベント告知や皆様のニュースリリースなど、本レターに載せてほしい情報や興味深い内容などありましたらぜひお気軽に共有ください。

Foot note
当サイトのコンテンツや情報において、可能な限り正確な情報を掲載するよう努めますが、情報の正確性・最新であることを必ずしも保証するものではありません。当レターに掲載された内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。
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